Toward Self-Reliance
持ち出せる資産と、持ち出せない資産
自走とは何か。この問いは、支援する側が何を渡せて、何を渡せないかという問題と裏表になっている。
資産は二層に分けた方がよい。ひとつは持ち運べる知識資本。方法論、共通データモデル、実装手順。案件を重ねるほど蓄積し、次の現場へ持っていける。もうひとつは、その組織固有の埋め込み資本である。誰が何を決めているか、どの言葉が通じるか、どこに触れると止まるか。これは持ち越せず、案件ごとに払い直す費用になる。
スケールを阻害するのは、実装能力ではない
一人でコードを書ける量がボトルネックではない。何社の内部に、同時にどれだけ深く入っていられるかがボトルネックになる。だから、入り込むコストを下げる標準化が要る。
ただし、抽象化には自己破壊的な上限がある。固有の資本を方法論に持ち上げた瞬間、それは他人も持てるものになる。だから、どこまで抽象化し、どこを意図的に抽象化しないかの選択になる。抽象化すべきはデータモデルと実装手順——退屈で再現性のある部分。抽象化してはいけないのは診断、つまりその組織のどこが壊れているかの見立てである。後者は形式知にしても、他人が使えば機能しない。だから、書いても減らない。
自走とは、この構造をお客様の側に作ることである。データモデルと実装手順は渡せる。渡せないのは想定外の反応が返ってきた場面での判断だが、それも記録を通じて、貴社の中に少しずつ蓄積していく。
お渡ししたいのは、システムでも方法論でもなく、その蓄積が回り始めた状態である。
本ノートは、実際の製造業向け営業基盤の導入プロジェクトを題材にした議論をもとに構成しています。 顧客企業を特定しうる情報は含みません。
Back to the Chapter
10 ── お客様が自走できるまで、支援する。